専攻長から

専攻長から

専攻長:稲山正弘(木質材料学研究室  教授)

私たち生物材料科学専攻は、その名のとおり生物がつくる有機資源を材料として利活用する研究分野を扱っています。20世紀型の工業化社会の全世界的な拡散によって、現在の地球環境は危機的な状況を迎えつつあり、地球温暖化に伴う異常気象による大規模災害の頻発、プラスチックごみ等による海洋汚染、建設廃材や都市ゴミの大量投棄など、環境破壊によるひずみが確実に広がりつつあります。これら地球環境問題を解決するためには、化石燃料や鉱物などの有限な資源のかわりに、自然エネルギーやバイオマス資源による持続再生産可能な社会へと転換していくことが必要です。

私たちが取り組んでいる研究対象の中心は、木材をはじめとするバイオマスです。バイオマスは生物がつくる有機資源の総称と定義することができますが、化石資源に匹敵する資源量を考えると森林が最も重要なバイオマス生産の場と言えます。再生可能な森林資源の積極的で有効な活用方法を開発し、様々なバイオマスを効率よく組み合わせて循環利用していくことで、持続性のある安定した人間社会を創り上げていくことが可能になると考えられます。

生物材料科学専攻で展開している、バイオテクノロジー(生物工学)、グリーンケミストリー(環境に優しい応用化学)、そしてマテリアルエンジニアリング(材料工学)は「環境の時代」を構築する上で何れも重要でかつ先端的な分野です。本専攻で具体的に取り扱っているバイオマス利用技術としては、生分解性を有するバイオプラスチック、植物の主成分であるセルロースから抽出した高強度材料であるセルロースナノファイバー、鉄筋コンクリートにかわって建築物の構造体を支える役割を担うCLT等の木質材料など、ナノ領域から大規模建築まで様々な分野の最先端の研究を担っています。木材および木質材料の物性評価・開発と、その利用分野としての木造建築の構造物の設計・居住性評価をはじめ、情報媒体や多くの生活資材として重要な紙の製造と高機能加工、バイオマス多糖の生分解に関与する酵素の機能解析とバイオマスから有用物質生産のためのバイオ変換プロセスの構築、バイオマス利用におけるリサイクル技術や環境影響評価など、さまざまな分野に生かされています。また、これらの先端的な技術開発を推進するうえで、木材の主要3成分(セルロース、ヘミセルロース、リグニン)の化学についての基礎的研究(化学構造、反応性、分子集合体の構造)と、木材組織が材料物性を発現する物理的機構についての基礎的研究が欠かせません。これらの基礎研究分野も本専攻の重要な対象領域です。

生物材料科学専攻がめざすところは、バイオマスという自然の恵みを私たちの生活に積極的に取り入れ、豊かで持続性のある新しい環境共生社会を構築するための技術を開発していくことにあります。生物学、化学、物理学、数学ほか基礎的な知見を広く応用しながら、未来へ続くプロセスを担う人材の育成を主眼において教育および研究を進めています。

  • 生物材料物理学研究室
  • 木質材料学研究室
  • 製紙科学研究質
  • 森林化学研究室
  • 木材化学研究室
  • 高分子材料学研究室
  • 生物素材科学研究室
  • 環境材料設計学研究室(アジア生物資源環境研究センター)
  • セルロース化学研究室
  • 生物素材化学専修 東京大学農学応用生命科学課程
  • 木質構造科学専修 東京大学農学応用生命科学課程
  • 農学生命科学研究科 生物材料科学専攻 木造建築コース